私は一卵よく世界を転覆し得ると大言しています。併しこれは決して誇張ではないと思います。科学的に、数理的に及び人間の心理的に、動かせない本質的基盤をバックボーンとして組み立て、歴史的に進化的に過去・現在及び将来の変遷・移行を調べ、自然と人為の調和によって益々強靭に、荘厳に肉付け、滲み出る人間社会愛の香りと、潤いと、美粧を添えて、永遠のものたらしめんとするもので、その礎石・原材となる総ての資材は、豊富に現実に用意されたとしても、設計・施工を過てば、あたらその良材も、風無くして倒壊し、又は醜悪の姿を晒すことでしょう。
私共はその工匠・術者たらんとし、否そのそれ等工師の何処かの最も小さくして、最も重大な要素となる無形資料に、滋味と活力を供する実動行為として、一箇の卵に心をこめるのです。
人間生存の源泉、衣食を、人為を尽して自然にもとめる大多数農家に、その方策に賛助し、効率の高揚と、生存の恒久生を取得されるように仕向けるものです。而して農民の得た結実は、他の凡ての人々の生存と活動を支持・擁護するものです。
私共は鶏を全農家の経営体に組み入れ、農地の肥沃化、生産物の良質の累進・収入の倍増による、職業と、食と、経済と、健康生活を確保し、その豊穣なる生産物を、消費者に安価に贈るもので、養鶏収入は全農産物の純益に匹敵するに足る、高額を占めるものです。
要するに鶏のいない農家を一戸もなくし、鶏卵肉を誰でもたやすく、農家は勿論、社長工員も、ルンペンも大臣も、街の隅々まで一人残らず日々食べられる運動、即ち広く浸透して、前部凡ての人の健康と生活を護り、一方狭く高く、特定の学究家等に無償で連続的に贈り、優秀知能の支持・伸長を図る、面と点に具現方式を実践するものです。
私も鶏に直接飼料は与えられませんが、会員諸氏の一個一個の卵にもタダの卵でなく、われひとと共に繁栄せんの心のこもった、人のよろこぶ卵として、養鶏に携わる者はその立場から、諸兄姉と相共に親愛社会に孵える一卵、一卵以て日本を、そして全世界を、幸福一色に改革する端緒とし、月界への通路たらしめましょう。
1954. 11. 29.
私は食いつめた時には大根の技術で活きて行けそうですし、死に対しては憧れ、急いでもいませんが、死を嫌っても居ませんから、私の為にでしたら、祀り上げたり、何等施さないで下さい。私の事を構わずに、良い、安い、世を明るくする卵を、一個でも多く生産して下さい。平常の暴言・失礼は反省していますが、何故に出る言葉や態度であるかが、解って頂けると思うのは果して厚顔でしょうか。
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